「114」


わたしは
わたしが生きていることを
誰かのせいにしてる
空や花や鳥をつくった
誰かのせいにしてる


ごめんなさい
わたしが存在してるのは
わたしのせいじゃないんだよ
どうしようもないんだよ


ごめんなさい
生まれちゃったんだ
生きてるんだ


たんぽぽの花が
きいろすぎて
笑っちゃうよ






「白い綿毛」


いつも
言葉を
探しながら

探しながら
捨てたがってる

いつか
すべての言葉を忘れても

さいごに
春風みたいな
いのちの
やさしいところだけ
残ったらいいな





 

「スーパーへ」  


わたしのお墓は
海だと 

わたしのお墓は
空だと

わたしのお墓は
土だと思って
生きています


いつかかえる場所を
目でとらえながら

わたしは
パンや野菜や
アイスクリームを買いに行く

いつか
いつか かえるよ

今日はまだ
今は まだ
生きる つもり







「しんこんさん」


すぐにでも
沈みそうだと思っていた
その船は
思っていたよりずっと丈夫だった

すぐにでも
沈みそうだと思っていた
その船は
私を乗せて進み続けた

1年前には知らなかった町で
暮らしてる

1年前には知らなかった人と
家族になって
暮らしてる


私は
しんこんさん

この やさしさも
この ぬくもりも
しんこんさん だからかな

ううん
それよりも

私は
にんげんさん

この やさしさも
この ぬくもりも
にんげんさん だからだな


いつか
すべてが終わったら
目を細めて
笑うんだ

しんこんさん
だった頃が なつかしいね

にんげんさん
だった頃が なつかしいね

夢みたいだったね





「なまえ」


不器用なあなたの
思わずふふふと
笑いだしそうになるやさしさに
愛情という名前を
つけたくなっては
やめる

辞書に収まるような
姿に変えてしまうのは
もったいないから
うれしくなって
おしまいにする

それにね
もし わたしが
「これは愛情ですか?」
なんて確認したら
きっとあなたは
その瞬間に
爆発して消えてしまうでしょう?

大丈夫 わかってる
そっと そっと
たいせつに

わが家にあるのは
正体不明の
うれしい何か

名前のない
うれしい何か





「ほんとうの思い出」


あの頃
小さなわたしは
一人だと思っていたけれど
ほんとうに
そうだったのかな

もしかしたらあの日
どこかから
とてもいいにおいが漂っていたかもしれないし

閉じられた本の中には
味方のような言葉がかくれていたかもしれないし

もしかしたらあの日
わたしの頭には
ちょうちょがとまっていたかもしれないし
花びらが一枚
くっついていたかもしれない

かなしい思い出
さみしい思い出
ほんとうに
ほんとうだったのかな

やさしい世界に背を向けて
泣いてただけかもしれないな